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広島高等裁判所 平成12年(く)51号 決定 2000年9月01日

少年 I・T(昭和59.11.1生)

主文

本件各抗告をいずれも棄却する。

理由

一  少年の抗告理由は、要するに、非行は初めてであり、また、被害者、その家族、自己の家族、学校関係者に多大な迷惑をかけ申し訳ないと思って反省をしており、これからは、自分の行動に責任を持ち、高校生として勉強に集中して体育大学に進むことができるように努力し、そして、一生懸命に親孝行をし、心機一転して家族と一緒に生活をしようと決意しているから、中等少年院に送致した原決定の処分は著しく不当である、というのであり、法定代理人親権者父、同母の抗告理由は、要するに、被害者の親が初めにA方に連絡していれば今回のような非行まで起こらなかったであろうし、自分たち親としても、何か素振りで分かれば注意をしたと思うし、ささいなことでも言ってもらえれば注意をするなどしたと思うので、親として反省をしており、また、少年は罪の償いをしており、審判の時に自分の気持ちを表現するのが十分でなかったように思われ、自分たち親は、被害者側の言い分どおりの金額で示談したから、右原決定の処分は著しく不当である、というのである。

二  当裁判所の判断

1  原裁判所が認定した第一の非行は、少年は、共犯者であるAが被害者と性的関係を持とうとしていたことに便乗して、被害者が助けを求め、強く拒絶しているにもかかわらず、自ら下着を脱がせるなどの暴行を加えて強姦に及んだものであり、第二の非行も、右共犯者及び自己の弟と共謀し、右Aが呼び出した同じ被害者を消防器具格納庫において、少年、同弟、Aの順に強姦に及んだものであって、いずれの非行も悪質である。

2  少年は、両親、兄弟と一緒に居住し、過去に非行歴はなく、学校、家庭での生活態度に、本件非行以外に格別非行的な崩れはないが、母親への甘え、依存性が強く、これを許容する母親に養育されたため、一人では思い切ったことのできない自信の乏しい性格が形成され、根気や集中力に欠け、持続性がなく、嫌なことには投げ遣りになり、気が弱く、臆病で自信がないため、周囲を気にし、対人交流の持ち方が未熟で、下校後、休日等は、年下の仲間と遊び、自主性、主体性がなく、行動がその場の状況や他人まかせになりやすく、周りの雰囲気に影響されやすい傾向にある。

3  少年の父親は、少年に対し、しつけにうるさく、勉強しろ、大学に進学しろと言い、一時単身赴任していたが、最近になって本籍地で家族と一緒に居住しているものの、トラックの運転手として帰宅は遅く、帰宅しないこともある等、日頃少年と接することもなく養育に対する熱心さに疑問がある一方、母親は、タクシーの運転手として昼間は少年と接することができないが、少年は素直でよい子だと見ていて、甘やかしており、少年の右問題点に対する認識に欠けるだけでなく、本件非行の原因についても、他に責任を転嫁する言動がみられ、親権者の監護能力は不十分であるといわざるを得ない。

4  以上によれば、本件非行の重大性、悪質性、少年の性格と行動傾向、親権者の監護能力が不十分であること等の諸事情から少年の要保護性は大きいものというべきであり、このことに、少年は、これまで非行歴はなく、学校、家庭での生活態度に非行的な崩れがないこと、少年鑑別所での生活を経ることにより一応反省の態度を示していること等の事情を考慮しても、少年の更生のためには、少年を施設に収容して、規律ある生活の中で、専門的、系統的な処遇を施し、自己の問題点に対する十分な内省を深めさせて内面的な成長を促し、規範意識の確立や女性の人格を尊重し、相手の心情へ配慮することができるよう社会生活に適応できる自信をつけさせることが必要である。

したがって、少年の非行事実及び要保護性を検討し、間もなく16歳になる少年を中等少年院に送致した原決定は相当であり、その処分に著しい不当はない。

しかしながら、本件非行は、記録によれば、少年の仲間の軽薄な行動に影響され、少年の性格、行動傾向が重畳して引き起こされたものということができるところ、少年は、高校生として極めて順応的であり、価値観に歪みもなく、「悪くなった理由は、周りの人の影響で、悪い方へと流されたためです」と自己の性格、行動傾向を自己認知していることから、少年の問題点である対人交流や生活の幅を広げるための自信をつかませる必要があり、そのための教育、訓練は短期、集中的なものでよいと考えられ、そして、少年は、高校生活を続けて、体育大学に進学したいとの強い意欲を示しており、その道の可能性を残すことも必要と考えられるほか、被害者との示談も成立していて、その履行も期待できるので、短期処遇が相当である。

三  よって、本件各抗告はいずれも理由がないから、少年法33条1項後段、少年審判規則50条により、これらを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 川波利明 裁判官 布村重成 裁判官 岩井伸晃)

〔参考1〕通知書

通知書

少年 I・T

昭和59年11月1日生

右の少年に対する当庁平成12年(く)第51号中等少年院送致決定に対する抗告申立事件(原審広島家庭裁判所三次支部平成12年(少)第42号強姦保護事件)につき、当裁判所は、平成12年8月30日、抗告棄却の決定をしましたが、その理由中で示したとおり、少年に対しては一般短期の処遇で足りると判断しましたので、その旨勧告の趣旨で通知します。

平成12年8月30日

広島高等裁判所第二部

裁判長裁判官 川波利明

裁判官 布村重成

裁判官 岩井伸晃

○○少年院長殿

〔参考2〕原審(広島家三次支 平12(少)42号 平12.7.28決定)<省略>

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